Symphonic Love by Junichi Abe

25歳の誕生日に何かが起きる。そう信じている青年の不思議な出会いを描く「We should fall in love」 ピアニストが紡ぎ出す新しい世界の予兆の音を感じさせる「Shymphonic Love」 それぞれの物語を通じて浮かび上がる真実の愛とは。 abejunichiが描く2作目の小説。

Symphonic love

25歳の誕生日に何かが起きる。そう信じている青年の不思議な出会いを描く「We should fall in love」 
ピアニストが紡ぎ出す新しい世界の予兆の音を感じさせる「Shymphonic Love」 
それぞれの物語を通じて浮かび上がる真実の愛とは。 
abejunichiが描く2作目の小説。

Genre: FICTION / General

Secondary Genre: FICTION / Romance / General

Language: Japanese

Keywords:

Word Count: 29195

Sample text:

We should fall in love

1
いつも二五歳の誕生日を想像してきた。なぜかはわからない。とてつもない幸運が訪れるような気もしていたし、大災害が起きて、あっけなく死んでしまうかもしれない。ただ二五歳の誕生日だろうということがわかっている。日にちだけが心の中で予言されている。そういうことが人生にあることは、特別なことだ。人生はその日を境に、良いほうにだって、あるいは悪いほうにだって変わる。けれどそのままの自分ではいられない。そしてこのままの自分ではいたくない。だから人生のひとつの契機としてその日を夢みている。
その日、たとえ何がおきたとしても、僕は以前よりも、もっと素晴らしい自分になる。そう決めている。どんな困難も、その日まで乗り越えようと思ってきた。そういう思いはひとつの信仰のようなものと言えるようになっている。夜、眠るときにみる夢は、時々は二五歳の誕生日に起きる何かの示唆をあたえてくれる。けれど、目が覚めるとそういう夢の内容を少しも思い出すことができない。ただその日、とてつもなく幸せな思いをする感触だけが目覚めるといつも残っている。
我にかえると、結局、二五歳の誕生日には何も起きなくて、ただそういう幸福を夢みているにすぎないと、時々は自分の予感を疑う。誰にもそういうことを話さなかったけれど、もし誰かに話したら、たちまちばかにされてしまうことはよくわかっている。きっとこの世の中では未来のことを話すことができるのは、よほど優れた学者か、あるいは、誰かをだますことが平気な占い師みたいな人々か、純粋な子どもだけだ。
だから黙っている。自分の二五歳という年齢の到来に、とても重要なことがあることを人々に隠している。確信はあっても、無関係な人々にとって未来は本当にやってくるまでは、わからないことだからだ。

自分の二五歳の誕生日の三ヶ月も前から、会社に休暇を願い出ている。その前日と、翌日も休みを申請した。二五歳の誕生日といっても、それは深夜の〇時からはじまり、次の日の深夜〇時で終わるわけではないかもしれない。念には念をいれておく必要がある。それまでこれといった休みをとってきたわけではないし、会社にいなければならない仕事は、入念にその三日間をさけてスケジュール調整してきた。だから何も問題はない。

三日間の休暇の前夜、グラスに買っておいたシャンパンを注ぎ、誕生日のイブのはじまりを祝う。時刻は二二時三六分をさしている。今日眠ってから、朝、目覚めると、ずっと前から動いていたカウントダウンが、本当に現実のものになる。そして特別な日の前日にかつて僕だったことを、もう一度取り戻そうと思う。けれどそう考えているうちに眠りこんでしまう。
夢はいつもより鮮明に描かれる。地下鉄を乗り継いでひとりの女性を探している。彼女の後ろ姿を見かけたと思ったら、彼女は駅のホームに降りて、反対方向の車両に乗り込む。僕は追いかけている。大勢の人の波にぶつかりながら、彼女の後ろ姿を見失わないように。彼女の次の行動を予測する。すると彼女が海を見たがっていることがわかる。夢の中では言葉なく思いが伝わる。いつしか僕らはともに海辺にいる。冬の寒い海風の中で、彼女の髪が舞い上がる。その瞬間に、眠っているのに瞼を閉じる。まだ彼女の顔を知りたくない。そう夢の中で思っている。
あるいは深い森の中で、彼女は木々に寄りかかっている。冬の木々は、雪がつもり、雪の美しい華が咲いている。彼女はとても寒いというようなことを言っている。彼女に目隠しされる。そしてその目隠しがとれる。すると辺り一面の景色が変わる。けれどやはり自分で目を閉じてしまう。たとえ夢の中でも、ものごとが実際に起きるその瞬間までは、何もみたくない。
僕はドアを開け、ドアを開け、ドアを開ける。部屋という部屋は、どこまでも続いていて、ベッドや、リビングや、ソファなんかが、きっと誰かが住んでいるみたいに、生活の中に溶け込んでいる。けれど人は誰もいない。僕は部屋を開けてまわり、彼女の姿を探す。幾つものドアを開けると、一番奥には寝室がある。とても大きなサイズのベッドがあって、彼女はそこに横たわっている。美しい音楽が響いている。その音楽の中で、彼女の寝息は聴こえない。でも、そのまま彼女の目覚めを待っている。
そして僕は目覚める。そしてこれまでとは違って、夢が、ある女性との出会いについてだと知る。誰かと出会うのだ。それはきっと間違いない。


Book translation status:

The book is available for translation into any language except those listed below:

LanguageStatus
English
Already translated. Translated by Ronny Aditya Tampake
Author review:
Roonyさんは原文のニュアンスを汲み取り、原文をそのまま英語に翻訳することができる翻訳者です。翻訳のスピードははやく、正確で、原文の深いところまで何も言わなくても掴んでくれました。テキストの中の最良の部分がそのまま英語になっていることを確認することは、とても喜ばしい体験であり、彼に翻訳してもらって僕はとても良かったと思っています。
German
Translation in progress. Translated by Karsten Brabaender
Italian
Already translated. Translated by Ilaria Di Cola
Author review:
イタリア語に翻訳していただきました。
彼女は日本語を理解していますし、翻訳を一生懸命してくださいました。
とても感謝しています。

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